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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1918号 判決 1997年8月26日

原告(反訴被告)

株式会社松原運送店

被告(反訴原告)

奈良観光バス株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、一三万一二八四円及びこれに対する平成八年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告に対し、二八〇万円及びこれに対する平成八年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴・反訴を通じてこれを一〇分し、その九を原告・反訴被告の、その余を被告・反訴原告の負担とする。

五  この判決の第一、第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(本訴)

被告は、原告に対し、四三万七六一六円及びこれに対する平成八年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(被告)

主文第二項と同旨。

第二事案の概要

本件は、原告・反訴被告(以下「原告」という。)が所有し原告の従業員である久枝広延(以下「久枝」という。)が運転する普通貨物自動車と、被告・反訴原告(以下「被告」という。)が所有し被告の従業員である市来政文(以下「市来」という。)が運転する大型乗用自動車との衝突事故に関し、原告と被告とが相互に民法七一五条に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1ないし3は当事者間に争いがなく、4は甲第二号証及び弁論の全趣旨により、5は乙第一号証及び弁論の全趣旨によりそれぞれ認めることができる。

1  平成八年四月五日午後五時四〇分ころ、奈良県山辺郡都祁村大字針三〇一六番地先道路(片側二車線の名阪国道下り線、以下「本件道路」という。)の第一車線(左側車線)上において、久枝の運転する普通貨物自動車(奈良一一い四五七八、以下「原告車両」という。)の後部に市来の運転する大型乗用自動車(奈良二二き一二九、以下「被告車両」という。)の前部が衝突する事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

2  久枝は、本件事故当時、原告の業務として、原告車両を運転していた。

3  市来は、本件事故当時、被告の業務として、被告車両を運転していた。

4  原告は、本件事故当時原告車両を所有しており、本件事故により原告車両がリアバンパー等の損傷を受けたため、その修理費用相当額である四三万七六一六円の損害を受けた。

5  被告は、本件事故当時被告車両を所有しており、本件事故により被告車両がフロントパネル、フロントガラス等の損傷を受けたため、その修理費用相当額である三六五万六五〇〇円の損害を受けた。

二  争点

本件事故態様が主たる争点であり、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。

(原告)

本件事故は、久枝が、原告車両を運転して本件道路を走行中、その前方を走行する他の車両に走行妨害され、本件道路の第二車線(右側車線)上で同車両と接触したことから、その事故処理のため本件道路の第一車線において停車したところ、原告車両の後方を走行していた被告車両に追突されたというもので、市来の一方的な過失によって発生したものである。

(被告)

本件事故は、久枝が、原告車両を運転して本件道路の第二車線を走行中、合図をすることなく第一車線に進路を変更し、かつ、その直後急制動の措置をとったため、第一車線を走行していた市来運転の被告車両がこれに衝突したというもので、久枝の過失によって発生したものである。

第三当裁判所の判断

一  前記第二の一1の事実、甲第一号証、第六、第七号証、乙第二号証及び証人久枝、同市来の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  本件道路は、片側二車線の交通頻繁な自動車専用道路で、最高速度は時速六〇キロメートルとされ、駐車禁止の規制がされている。本件事故現場付近は平坦な直線で、見通しがよい。

2  久枝は、本件事故の少し前、原告車両を運転して本件道路を走行していたが、本件事故現場手前にある登り坂を同所に設置された登坂車線を走行せずに右側の車線を走行していると、後方から走行してきた白色のトヨタ・クレスタ(以下「クレスタ」という。)がパッシングをし、更に原告車両を左側から追い越してその前に割り込んだため、久枝は立腹し、パッシングをしてクラクションを鳴らしたものの、クレスタはその場を走り去って行ったという出来事があった。その後、久枝が走行を続けると再びクレスタに追い付いたが、今度は、久枝が第一車線に進路変更するとクレスタもその前方で同じように進路変更し、逆に、久枝が第二車線に進路変更するとクレスタもやはり同じように進路変更するようにしたため、久枝は、クレスタの運転手に原告車両の走行を妨害されたものと感じて再び立腹し、クレスタと競うような状態で原告車両を走行させた。このとき、原告車両は時速八〇ないし九〇キロメートル程度になっていた。

そのうち、原告車両が接近すると、クレスタの運転手は急ブレーキをかける行動に出て、それが何度が続いた後、第二車線上で原告車両がクレスタの至近にまで接近した際にクレスタの運転手が急ブレーキをかけたため、久枝が急ブレーキをかけたが、間に合わず原告車両がクレスタに追突する事態が発生した。このとき、両車両はいったん停止したが、クレスタがそのまま走り出したため、久枝は、第一車線に進路変更のうえクレスタと並ぶように原告車両を走行させてクレスタの運転手に停止するよう合図したところ、クレスタが第二車線上に停止したので、久枝も、原告車両を第一車線上に停止させた。

3  市来は、本件事故の少し前、バスガイド一名、乗客五三名を乗せた被告車両を運転して本件道路の第一車線を時速約七〇キロメートルで走行していたが、第二車線をクレスタ及び原告車両が被告車両を追い越して行き、クレスタ及び原告車両が急ブレーキをかけたり、車線を跨いで走行している様子が見えたので、乗客と声をそろえて危険な行為である旨話していたところ、その後、前方約七〇メートルくらいの第二車線上にクレスタ及び原告車両が停止しているように見えた。そこで、市来は、時速約六〇キロメートルに減速して走行を続けたところ、前方約三〇メートルの地点に原告車両が合図をすることなくゆっくりとした速度で第一車線に進路を変更するのを目撃したため、ブレーキをかけた。このとき、市来は、被告車両には定員に近い人数の乗客が乗車しており、急ブレーキをかけた場合には最前列の補助席に乗車している乗客がフロントガラス付近にまで飛ばされる可能性があるなどの危険を感じ、急ブレーキを避けた。ところが、市来は、被告車両が普段乗務している車両とは異なる車両であったことからブレーキ性能についての感覚を誤り、予想したほどにはブレーキが効かなかったため、間に合わず被告車両を原告車両に衝突させ、本件事故を発生させた。なお、市来が後にタコグラフで確認したところ、右衝突時の被告車両の速度は時速一九キロメートルであった。

4  本件事故発生後、クレスタの運転手(中年男性、氏名不詳)は、クレスタを運転して本件事故現場を立ち去った。

二  右認定事実によると、本件事故発生の瞬間には原告車両は停止していた状態であるとしても、右のような状態に至らせたのはクレスタの運転手と原告であり、ことに、クレスタを第二車線上に停止させたうえ、原告車両を第一車線上に停止させたのは原告であるところ、本件道路は交通頻繁であるうえ、証人久枝の証言によれば、久枝は被告車両が後続していることは認識していたことも認められ、久枝には、駐車禁止の自動車専用道路で、第一車線及び第二車線に車両を停車させ、原告車両とクレスタとの間における追突事故とは全く無関係の後続車両の進路を塞ぐ状態を生じさせた点で重大な過失があるというべきである。この点、原告は、本件事故は、原告車両が被告車両に追突された事故であり、市来の一方的な過失によって発生したものである旨主張するが、本件事故は、信号待ちのため停止中の車両に前方不注視の後続車両が追突したような形態の事故とは根本的に状況が異なるものであり、原告の右主張は採用することができない。

なお、証人久枝は、クレスタが第二車線上に停止した後、久枝は第一車線上に原告車両を停止させ、ギアをニュートラルにして、サイドブレーキを引いて、ハザードランプをつけて、シートベルトを外して、ドアロックを解除して外に出ようとしたところを被告車両に追突された、原告車両を停止させてから被告車両に追突されるまでの間は五ないし六秒あった旨供述する。しかし、甲第六号証及び証人久枝の証言によれば、久枝は、本件事故当時クレスタによる走行妨害及びクレスタとの衝突等により相当興奮していたことが認められるうえ、ハザードランプを点灯させた時期については、証人市来は本件事故後であると供述していること、また、久枝が原告車両を停止させた後にとったとする一連の行動は、経験則上、自動車の運転に慣れている者であればさほど時間を要することなく行いうるものであると認められることに照らすと、右供述はただちに信用することができない。また、仮に被告車両が時速六〇キロメートルで走行していたとすると、五秒間では約八三メートル走行することとなり、証人久枝の右供述を前提とすれば、久枝が原告車両を第一車線上に停止させた時点では、被告車両はその約八三メートル後方を走行していたことになるところ、証拠上市来に著しい前方不注視があったことを窺わせる事情は見当たらないのに、右のような状況で市来が本件事故を回避できなかったとするのは不自然であり、この点からみても、右証人久枝の供述は信用できない。

以上によれば、本件事故は、久枝が、クレスタを停止させることに気を奪われ、合図をすることなく、かつ、後方から進行してくる車両の有無に注意を払うことなく、第二車線から第一車線に進路を変更したうえ、第一車線上に原告車両を停止させた過失により発生したものと認められる。しかし、市来にも、クレスタ及び原告車両の異常な運転方法に気づいていながら、速度を時速六〇メートル程度に減速したのみで被告車両の運転を続けたうえ、被告車両のブレーキの効きについて判断を誤り被告車両を原告車両に衝突させた過失があるというべきである。そして、本件事故態様及び右の久枝、市来の過失の内容に照らすと、久枝及び市来の過失割合は、久枝が七割、市来が三割とするのが相当である。

三  そうすると、本件事故による損害は、原告は四三万七六一六円、被告は三六五万六五〇〇円であるところ、前記過失割合に応じて、原告の損害から七割、被告の損害から三割を控除すると、残額は、原告は一三万一二八四円、被告は二五五万九五五〇円となる。被告の弁護士費用(原告は、弁護士費用相当損害金は請求しない。)は、本件の性格及び認容額に照らすと二五万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、一三万一二八四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年九月六日から支払済みまで年民法所定五分の割合による遅延損害金の支払を、また、被告は、原告に対し、二八〇万円九五五〇円のうち被告の請求にかかる二八〇万円及びこれに対する本件事故の日である平成八年四月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めることができる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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